蜜色ドロップ

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「好きなところに逃げろ」  ソイツから離れて押し入れに向かい、拉致した時にソイツが身に付けていた衣服を取り出して、投げ付けながら冷酷に言い放つ。  このまま此処に居ては殺されてしまう。逃げれば今までの生活には戻れないが、新しい人生を歩むことはできる。  俺は今から、ソイツの父親を殺しにいく。父親を殺した相手と、それも人間とあいまみえない人狼と共に居ては、ソイツは真の自由を手にすることはできない。  ソイツには幸せになって欲しい。鳥籠から放たれて、大空を羽ばたいて欲しい。だから、わざと突き放すように冷たく接する。 「何処へ逃げると言うんだい? 僕の居場所は君の腕の中だ」  何があっても離れるものかという強い力で、俺に縋り付いてくるソイツ。 「君は僕の父を憎んでいるんだろ? 父を苦しめるために僕を攫ったんだろ? 僕が居なくなってもあの人は苦しまない、代替品を探すだけだ。でもそのことを言えなかった。君と離れたくなかったんだ。君に抱かれる度に心が生き返っていった。だけど君にとって僕は復讐の道具に過ぎない。君を欲しがってはいけない、抱かれて喜んではいけない。だから、ただの道具になろうと感情をなくした」  血を吐くように心情を捲し立てたソイツが、涙でグショグショの顔で俺を見つめる。 「でも駄目だった。感情を消すことはできなかった。ごめんよ、僕は君を愛しているんだ。君と離れたら生きていけないんだ」  ごめんごめん、と壊れたように繰り返し、泣き崩れるソイツ。涙で濡れる瞳は、朝露のように清らかで神聖な輝きを発している。  其れから放たれる、俺を渇望する強い視線。あぁ、本当に俺のことを……。
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