97人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の中の汚れた感情が浄化されていく。そして、空っぽになった体は蜂蜜のような甘い想いで満たされていく。
母に抱いた想いとは違う、甘酸っぱくて切ない、だけれど温かくて幸せで、絶対に手離したくない想い。
ソイツの本心を知り、憎き男への復讐などどうでもよくなってしまった。
ソイツと愛し合い、生きていきたい。
愛を護って逝った父も、愛に生きた母も、愛に生きたいと願う俺の背中を押してくれるだろう。
「後悔しないな。では乗れ」
狼の姿になると、頷いたソイツが俺の背を跨いでしがみついてくる。
小屋の外に出ると、松明の灯りがすぐそこまで迫っていた。
ソイツは自分の洋服ではなく、俺の着物を羽織っている。
過去の自分と決別するように。必要なのは俺だけなのだと言っているように。
母との思い出の詰まった小屋を一瞥する。
俺もあの男への憎しみは此処に捨て去っていこう。母との幸せな思い出だけを持ち、愛するソイツを乗せて山奥へと駆け出す。
二人だけの棲みかを求めて――。
《終》
最初のコメントを投稿しよう!