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ソイツが気絶するまで貪ったあと、小屋の外に出る。高い位置で輝いていた太陽はとっくに沈み、夜の帳が下りていた。
夕立でもあったのだろうか、昼間のような暑さはない。ねっとりと纏わりついていた精の臭いが、涼を運ぶ風で流されていく。
小屋の脇にある岩に腰掛けて天を仰ぐ。雲に覆われているようで、ここ数日夜空を彩っていた、零れ落ちてきそうな星の瞬きは一つも見えない。
俺の心のようだな、と曇天の夜空を眺めていると、ピューと風が吹き抜けていった。ザワザワと揺れる木々は、昼間ならばキラキラと緑が輝き清涼感を味わえたのだろうが、闇夜の今は魔界の森に迷い込んだような気分にさせてくる。
自分の考えが馬鹿らしくなって目を伏せると、優しく抱き締めるような温かな気が体を包んだ。そっと顔をあげると、雲が切れて月が顔を出していた。蜜色の真ん丸な月だ。
その光を身に受けた刹那、ドクンと心臓が跳ね、滾った血が末端まで広がっていく。固体から液体に変わっていくように、力が抜けていく体。
「君は……」
唐突に背後から声がして、ビクリと肩が跳ねる。
まさかと疑いながら振り返った先には、深い眠りに落ちていたはずのソイツがいた。
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