蜜色ドロップ

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 俺を見て目を丸くしているソイツを威嚇する。だがソイツは微塵も怯えず、懐かしそうに目を細めた。 「君の、その満月と同じ蜂蜜色の瞳には見覚えがある。思い出したよ、君はあの狼だね」  俺の一族は人狼だ。此処から何十里も離れた山里でひっそりと命を繋いできたらしい。  らしいと言ったのは、俺は人狼の里を訪れたことがないからだ。正確に言えば、訪れることを許されない身なのだ。  母は、実の兄と愛し合って俺を身籠った。  近親間で出来た子供は一族に災いをもたらすと言い伝えられていて、一族は腹の中の俺ともども母を殺そうとした。父は俺と母を護って殺され、母は命からがら此処に逃げて俺を産んだ。  人狼の存在を人間は知らない。  だが、狼は稀少な動物だとその存在を知っている。見世物にするために捕らえようとする奴等もいる。  俺達人狼は、成人するまで人型にはなれず狼の姿のままだ。  成人しても自由に姿を変えられるため、移動や狩りなどは能力の高い狼の姿ですることが多い。母も山を駆け回る時は狼の姿になるし、人型になれない俺がいるため、小屋のある山一帯に人間が立ち入れないように結界を張っていた。  母子だけが暮らす山中で、質素だが平穏な日々を過ごしていた。あの時までは……。
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