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結界を張ったはずの山に何故か人間が入り込み、狼狩りと銘打って母を殺したのだ。
俺を庇って覆い被さる母の背中に、雨のように降り注ぐ銃弾。弾が切れると補充し、狂ったように引き金を引きまくる。銃声の合間に聞こえる、男の狂気じみた笑い声。
永遠とも思える地獄の時間だった。
母の死を信じたくなかった俺は、声が枯れるまで母の名を呼んだ。しかし、どれだけ呼んでも瞼が開くことはない。
美しかった銀色の毛が赤黒く染まっている。父も大好きだったという自慢の毛並みが汚れているのが恥ずかしくて目を開けないのだと考え、汚れを舐めた。だが、舐めても舐めても元の輝きを取り戻すことはできなかった。
一昼夜それを続けても目覚めない母に、死を認めざるを得なかった。
母の半分の大きさもなかった非力な俺には小屋まで運ぶことはできず、息絶えた場所に穴を掘った。そして母の好きだった純白の花を、花嫁衣装を着せるように全身に被せて埋葬した。
そのあと、周囲に残っていた臭いを追って山を降りた。母を殺めた男を噛み殺すために。
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