蜜色ドロップ

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 辿り着いたのは、高い塀で囲まれた大きな屋敷だった。のちに西洋建築だと分かるのだが、初めて見る石造りの屋敷は不気味で、とんでもない魔物が住んでいるのだと怖じ気づきそうになった。  震える手足に喝を入れて塀をよじ登る。何度も何度も滑り落ちながらもなんとか登りきって気が抜けたのか、体勢を崩して塀の天辺から屋敷の庭に落下してしまった。 「っ……」  落ちた場所には運悪く庭木があり、左足を枝で切ってしまった。灰色の毛が、みるみる血で染まっていく。ズキリズキリと傷口が痛み、歩くのもままならない。  すぐそこに憎き男がいるのに、こんな傷ごときで引き返すわけにはいかない。男の命を奪えるのならば、自分の命を捨てても構わないと此処にきたのだ。  足を引き摺りながら屋敷を目指して歩き始めると、此方に近付いてくる小さな灯りが見てとれた。誰かに見つかってしまったのか? 復讐の邪魔をする奴は始末するだけだと、臨戦体勢に入る。 「犬? いや違う、君は狼かい?」  ランプを手にした少年が、俺の顔を覗き込む。灯りで浮かび上がる姿を確認すると、見たことがない着物――のちに洋装のシャツとズボンだと知る――を着ていたが、武器は持っていなかった。  だが、屋敷から出てきたということは、あの男の仲間だ。子供であろうと容赦はしないと、威嚇する。
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