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「十時さん? どうかされたんですか?」
僕は後ろからそう訊ねて来た少年を振り返り、腕に抱いたそれを少年に見えるように差し出した。
それを見た少年は『わぁ~』と声を漏らしてにこにこしていた。
「綺麗なお花ですね。何と言うお花なんですか?」
少年は大きな澄んだ目を爛々と輝かせて紙に包まれたその赤黒い花弁の花を見つめ見ていた。
「これは・・・『天竺牡丹』ですね。今は『ダリア』と呼ばれることが多いかと思いますけれど・・・」
僕は少年の問いにそう答えて自宅の門を出て暗い舗装された夜道を見回した。
「・・・此処まで来られたのに・・・お寄りにはなられないのですね・・・」
僕はそう呟いて項垂れて小さな溜め息を吐き出した。
嗚呼・・・逢いたかったのに・・・。
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