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日が暮れて、もう一人の同居者が、私一人の台所を覗いた。
「晶子、楽しそうだねえ。」
そういう彼の眼は、何かを探るような鋭さを帯びていて、ちっとも楽しそうじゃない。
「貴方は何か食べる?」
「僕は要らない。君は夕食に何を食べたの?」
「あら、何だったかしら。忘れちゃった。そうだ、昼間にフランス人たちと、新しい紅茶を開けたから、一緒にいかが?」
「いや、遠慮しておくよ。お休み。」
「おやすみなさい。鮫浦さん。」
彼はいつも、具体的に仕事の細かな打ち合わせなどをする時以外には、このようにのぞき込むだけで、決してダイニングでみんなと一緒には過ごさない。けれどそれによって、此処全体の調和を壊さないよう、細心してくれているようでもある。私はともかく、フランス人たちは自分の生活の調和をすごく大切にする。鮫浦さんに何か細かい事を言われても、殆ど無視して、自分のスタンスを変えない。私は急に眠くなったので、自室へ帰って床に就いた。
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