9月のフィッシュバーガー

2/19
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 私の母は、料理なんかしない。毎日パートの仕事で忙しいのだ。普通のお母さんが、朝起きて、子供たちの朝食や夫の弁当を作ろうとする時間、私の母は、青果市場の片付けやお掃除をしている。みんなが眠い目をこすりこすり起きて来る頃、母の仕事は半分位終わったところだよ。片付けの後は、市場の直営の、八百屋さんとレストランの下拵えの作業を手伝う。昼頃に終わって、私と買って来た残り物のお惣菜でランチする。それから、ちょっと昼寝したりして、夕方には私の夕ご飯を用意したら、二個目のパートに行く。世の中のお母さんたちが子供に夕食を食べさせたり、お風呂に入れたりして忙しい時に、私の母は、近所のスーパーマーケットでレジ打ちと品出し。十時の閉店まで働いて、お掃除して、帰って来る。 「悪いけど、今日はお惣菜の残りが無かったから、日切れ(賞味期限切れ)のアンパンしか無いけど我慢して。」  ぱさぱさアンパンが、夕食の時もある。母はいつも、疲れた顔をしていて、家ではゴロゴロばかりしている。目の下には黒いクマがあって、病気みたいな顔だ。たまに、珍しく化粧をする時、気にしてパウダーをはたきまくっていたけど。  私は中学校が終わって、母と昼間の時間を過ごすようになって、嬉しい。だって、こうして毎日忙しく働いている母は、小学校一年の時からずっと、家に居る事が無かったから。お正月も、クリスマスも。子供である私はいつも恐怖の大王と二人きりだった。三個上の兄だ。小さい頃から、母が居ない寂しさとひもじさのせいで、兄は私にひどい暴力を振るった。頭をゲンコツで殴ったり、鉛筆や鋏で体を強く突いたり、髪や服をジャキジャキ切られたこともあった。母親不在の家の中では、兄の暴力を止める者は誰も居ない。私は怖くて、反抗も出来ないで、ただ硬直するようになった。成長期に食事を受け付けなくなり、生気を失い、活動不足の為、私の手指は細く短くなり、歯が成長しないので顎は尖り、顔が歪んでいて醜い。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!