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「啓子ちゃんに美味しいものでも買って帰ってあげなさい。」
優しい言葉とは裏腹に、母は、苦渋に満ちた表情をしている。コイツに本当に金を渡して良いのかどうか、疑問に思っているのだろう。そりゃあそうだ。
一度だけ、啓子が家に来た事があった。目が細くて小さくて、髪の長い、無口な子だった。兄から、私の様に暴力を受けているのではないか。いや例え、今それを免れていたとしても、いずれ受けるに違いない。母の心配も、そうに違いない。
ああ、啓子が私の代わりにあいつに暴力を受けていることを、私は願う。私の苦しみが、私だけのものでありませんように。そして、兄に訪れたたった一つの安住の場所が、啓子がいつまでも健康で、兄と二人三脚の幸せを紡げますように。その様な悲劇が決して起こりませんように、私は全く反対の事を一度に神に祈る。
「先生、晴菜を施設に入れる事をご相談に参ったのです。」
「その事ですが、おうちから通院と言う事では、何とかなりませんか。施設の方も手一杯で、自宅療養でデイサービスを続けて行くと言う方法を、ご提案していた筈です。晴菜さんの場合、ご家族であるお兄さんのご協力も得られると思うのですが。」
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