9月のフィッシュバーガー

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 医師は無言にならざるを得なかった。患者の家族は、懸命に、言葉を選びながら、言った。 「晴菜の社会性が育っていないのも、あの子の兄が家族としての役割を果たさない事も、全て私の責任です。けれどももう、時間が無いのです。どうにか入所出来るよう、お願いいたします。お金の方は何とか入所費用を工面出来る様に頑張りますので、」  相談者はそう言うと、お辞儀を一つして、診察室を出て行った。  鮫浦医師は、晴菜について、特異的であった入院中の病状を、カルテを見ながら思い返していた。多重人格症は、入院して、安定した生活の間に現れ、その後消失した。後に残ったのは、外部とのコミュニケーション障害のみであった。特に社会生活が困難であるとは考えられない。不埒な兄の存在と、庇護する母の不在さえなければ。     
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