9月のフィッシュバーガー

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 私の母は料理なんかしない。いつも、して欲しかったのに。小学生の頃は、友達がお夕飯のメニューを自慢するのを羨ましく聞いていた。パート先の商店で売れ残りの菓子パンが沢山出て、甘ったるいチョコレートやジャムのパンでお腹一杯になるより、温かいお味噌汁の一杯が、食べたかったものだ。母が、菓子パンを美味しそうに食べる私を見て喜ぶので、それを口に出す事は出来なかった。未明に賞味期限が切れようとするパンを、頼んで安く買い取って来る事も、母にとって苦労であったと、母の働く姿を見ていたわけでは無いが、私にも推察出来た。  母はいつも疲れ切っていた。どんなに化粧を施しても隠れ得ないほどに、濃いクマがある痩せて尖った顔立ちで、不機嫌そうな表情は、貧しさと 生活の困難さを表していた。参観日に談笑している同級生のお母さんたちは、美しく洗練されており宝飾品を身に着け輝いていた。彼女らの半分ほどでもいいからまともになって、時には参観に来ても貰いたかったが、幸いな事に参観に現れる事はほぼ無く、物好きなクラスメイトが私の家に遊びに来ても、彼女が家に帰るまでに母が帰って来る事は無かった。     
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