9月のフィッシュバーガー

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 私はテレビの料理番組が大好き。テレビでは、毎日家族の為に、お母さんたちが作るような料理を、手際よくカメラに映して見せてくれて、芸能人の人たちがその料理を美味しそうに食べる。私の理想の家庭生活が、テレビ番組の周りに展開される現実を、感じる事が出来る。私の小さい指は包丁を上手に扱う事が出来ない。細い指と腕は、ニンジンやジャガイモを刻む力が無い。でも、テレビを見ながら、レシピのこれとこれを合わせると、どんな味のハーモニーになるのだろうと、いつも想像している。程よく焦がしたお醤油の匂い、照りを施す為の、適量のお砂糖や味醂。テレビに映った献立と、たまたま母が勤め先から買って来たお惣菜が、同じものであった日、私はそれを味わう時、歓喜に震えた。  ルーシーは、そんな私を近くから微笑んで見ている。彼女は何か、机の上の大量の本を整理している。 「フィッシュバーガーだけど。ルーシーも食べる?」 「今はいいわ。お腹空いていないの。この教科書を整理しなくちゃ。」  ルーシーの茶色がかった金髪は、サラサラ風になびいて美しい。大きく開いた窓の向こうから、庭の木々の緑を吹き渡った風が室内に入って来るから。 「ルーシー、教科書を処分するの?大学院のカリキュラムは終わったの?」 「そうよ。それに、新しく始めた仕事の同僚と、これから同居する事になったの。アキコ、貴女にも紹介するけれど、共有スペースを整理して、彼の為の場所も作ってくれるわね。」     
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