9月のフィッシュバーガー

9/19
前へ
/19ページ
次へ
 ルーシーは、ごく自然に、長い金髪をさらりと束ねて、後ろで一つに結んだ。彼女はいつもこんな風に落ち着いていて、リラックスしている。自然体だ。彼女が自然体で居てくれるから、私も努めて自然にしていようと出来る。学校であれば、寧ろ、自然体であり過ぎる友人たちの態度は私の心を?き乱して、却ってパニックになったものだったけれど。そんな時私は、先生に迷惑をかけないように、一日中トイレに隠れて、自分を保っていたものだった。緑の木々の間から吹き込む穏やかな風の中、作業をしているルーシーの静かで深い呼吸が、自分にも伝わって来る。そして私自身も、その風の中に包まれて深く息を吸い込む。  この家にはもう一人の同居人が居る。中年の男性だ。彼は私と同じ仕事先の、何か偉い人らしくて、いつも私に仕事の進捗状況を確認して来る。仕事先の他の人たちにも、横柄な口を利いている。時には陰で、悪口を言われている。でも、中には彼を認め一目置いている人も多いみたい。そんな存在だ。仕事先では、私には何か口うるさく干渉して来る時もあれば、全く無視して関わらないで居る時もある。そんな存在だ。だから私は、悪口を言うほどでもないが、然程尊敬もしていない、と、彼に対しての印象はそういった程度だ。  ルーシーの連れて来た人は、ルーシーとよく似た色の長髪の、背の高い男の人だった。明るいところに立って、並んだ二人の髪の色は、同じ色に見えたが、彼の方は、結ぶとより濃いめの茶色だった。自然光の前で、髪の毛を下ろしていると、光を透かして髪は金色になり、丸眼鏡をかけた顔はジョン・レノンみたいだった。 「ところで、あの、彼の大好物は、フィッシュバーガーなの。」  ルーシーがちょっと照れくさそうに言ったので、私はとっておきの紅茶を入れて、昼に作っていた切り身魚フライのサンドウィッチを二人に振舞った。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加