ズキ×ズキ

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「謝る必要なんかない。おまえは十分役に立った」 「役に、立った……?」 「ああ。おまえのおかげで多少なりとも痛みが軽減した、ありがとう」  穏やかに礼を言うダンテは、やはりどこかおかしかった。リオンは、あることに気づいてハッとする。目が、変なのだ。光がない。まるで生気の無い目をしていた。リオンが狼狽している間にも、荷物を詰め終えたダンテは立ち上がろうとする。リオンは彼の腕を掴んだ。 「ダンテ、待って。なにかあったの?」 「なにもない。──じゃあ」 「あ」  リオンは慌てて、金平糖の瓶を差し出す。 「これ、もって行って」  ダンテは瓶を受け取り、じっと見下ろした。 「疲れた時とか、リラックスしたい時のために……」  リオンが話をしている最中、ガラスが割れる音が部屋にひびいた。 「!」  リオンは肩をすくめた。足元に散らばった瓶のかけらと、金平糖を見て瞳を見開く。ダンテは、平坦な声で言う。 「ああ、悪い。わざとじゃないんだ」 「う、ううん、いいの」  心臓が、どくどくと嫌な音をたてている。声が震えそうになるのを必死に抑えた。 「じゃあ」  ダンテは散らばった金平糖をそのままに、部屋から出て行った。バタン。ドアが閉まる強い音は、ダンテの深い拒絶そのものに思えた。     
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