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翌日。荷物を手にやってきたダンテを、リオンはドアの隙間から見た。
「ほ、ほんとに来たの……」
「ああ。開けろ、綿毛」
「私は断ったはずよ、嫌だって」
「なるほど。つまり、ドアを壊されたいのか」
ダンテの足元に、薔薇の花が咲いた。蔓がシュルシュルと伸びて来たので、リオンは慌てて扉を開ける。彼の魔力なら、ボロアパートの扉を壊すくらいわけないだろう。
ダンテはそれでいいとでも言いたげに頷き、中に入ってきた。
「おまえはどこで寝てるんだ?」
「私は自分の部屋で、って!」
ダンテが勝手に自室の扉を開けたので、リオンは慌てた。
「勝手に開けないで!」
「少女趣味だな」
リオンは扉を閉め、真っ赤な顔でダンテを睨みあげた。彼は目を細めて、
「俺はソファで寝てやる。ピンクのシーツで寝る趣味はないからな。毛布をくれ」
「なんで何もかも上から目線なの……」
リオンはぶつぶつ言いながら、ダンテに毛布を渡した。彼はソファの周りに、勝手に自分のスペースを作っている。それを見ながら、気になることを聞いてみた。
「ねえ、ダンテ。親御さんはいいって言ったの?」
「さあ」
「さあって」
「間違いさえ起こさなきゃなにも言われない」
間違い? 首を傾げたリオンを見て、ダンテが目を細めた。
「うちの家は純血を大事にしててね。薔薇の花を持つ娘しか受け入れないんだ。万が一他の花に手を出したりしたら大騒ぎなんだよ」
手を出したりしたら──その言葉の意味するところを知り、リオンは真っ赤になった。
「……っ」
「だからこのことは秘密なんだ。わかるか? 綿毛」
「私、綿毛じゃないもん」
世界一無駄な抗議は、さらりと受け流された。
「腹が減ったな。何か作って。綿毛」
「……」
こうして、傲岸不遜な薔薇の王子様との同居生活が始まった。
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