天才×凡人

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 はああ、という深いため息が、少女の口から漏れる。 「追試かあ……」  リオン・オランジュは、手元の紙を見ながらとぼとぼと歩いていた。華奢な体躯を包む制服。柔らかそうな橙色の髪が肩に落ちていた。階段に差し掛かり、誰かにぶつかりかけたリオンは、慌てて立ち止まり、頭を下げる。 「すいません!」  と、持っていた紙をひったくられた。 「!」  顔をあげたら、ひとりの少年がこちらを見下ろしていた。用紙を眺め、皮肉げに笑う。 「E判定か。ひどいもんだ」 「か、かえして!」  リオンの手をかわすべく、つまんだ紙をひらりと揺らし、彼は言い募る。 「よくこの成績で花魔術院(フラウィザードアカデミー)に入れたな、綿毛」  ムキになりながら、リオンは叫ぶ。 「私は綿毛じゃありません、リオン・オランジュです!」 「E判定なんて、狙っても取れないだろ」  リオンは成績表をひったくり、目の前の男を睨んだ。 「そりゃ、あなたは天才だから」  彼──ダンテ・ロズウェルは、紅い瞳をこちらに向け、意地悪く笑う。端正な顔立ちなのに、リオンの前ではいつもそんな顔をしてみせるせいで、どこか歪んだ印象を受けた。 「100と0はどちらも極端な数値だ。つまり極端さでいえば、おまえも天才ってことになるな」  花術院の制服ではなく、シャツの上に白衣を羽織った姿がトレードマークの彼は、この学院始まって以来の天才と呼ばれていた。しかし……。 「綿毛の魔術師。……ぷっ」  クスクス。そんな笑い声が聞こえそうなほどに肩を震わせている。彼はなにかとリオンを馬鹿にするし、意地が悪いのだ。 「ぷ、魔術花(プリティモ)が薔薇だからって、威張らないで!」 「それはダジャレか? 全然笑えないんだが」 「~っ!」  リオンはダンテを避け、階段を登り始めた。後ろから彼の声が追いかけてくる。 「なあ、なんなら俺が花のあやつり方を教えてやろうか?」 「結構です!」  またクスクスという笑い声が聞こえる。やな感じ。すれ違った女の子たちが、?を染め、ひそひそ話している。 「ねえ、ダンテよ」 「素敵ね」  リオンは、背後を歩く少年をちら、と見た。
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