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お昼休み、リオンは売店でお昼ご飯を買い、屋上に向かった。はたはた揺れる校旗を眺めながら、サンドイッチを食べる。特製のコーヒーを一口飲み、ふう、と息をついていたら、屋上の扉が開いた。姿を現したのはダンテだ。
「おまえ、またここにいたのか。寂しいやつだな」
ダンテに寂しいとか言われたくない。彼だって、友達らしい友達はいないはずだ。リオンとは別の意味で、ダンテは浮いていた。彼は優秀すぎるがゆえ、リオンはみそっかすがゆえに浮いているのだ。リオンはぷい、とそっぽを向いた。
「別にいいでしょ。何か用」
彼は白衣の裾をはためかせながらこちらへ歩いてきて、隣に座った。ふわっ、と薔薇の香りが漂って、肩が触れ合わんばかりに近づく。その距離の近さが気まずくて、リオンは彼からじりじりと離れる。ダンテはリオンが持っている水筒に目をやり、
「それは?」
「たんぽぽのお茶、だけど」
「一口よこせ」
なぜそんなに偉そうなのか。生まれた時から仁王立ちしていたのではないか、この男は。リオンがコーヒーを差し出すと、ダンテはそれを一気に飲み干した。唇をなめる動作にどきりとする。艶のある黒髪も、ルビーみたいな紅い瞳も、思わず見とれてしまうくらいにきれいだ。
(やっぱり、かっこいい、な……)
「美味いな。おまえ、花魔術(フラウィザード)の才能はないけど、お茶を淹れる才能はあるんじゃないか。砂つぶほども役に立たないが」
「美味しい、だけでいいじゃないの」
どうしていちいち嫌味を言うのだ。かっこいいのに、性格が悪すぎる。ダンテは菜園を指差し、
「あれ、おまえが育ててるのか?」
「うん、自然栽培で植物を育てたくて」
「なんのために。この学院には百花の魔術師たちがいるのに、わざわざ栽培する意味がわからない」
「なにって、魔法が使えない人たちは、そうやって植物を育てるのよ。それが自然なの」
「おまえは一応魔術師だろ、E判定の綿毛だけど」
リオンはムッとしたあと、
「別にいいじゃない。育てるのが楽しいんだから」
ダンテはふん、と鼻を鳴らし、リオンが持っているサンドイッチを指差した。
「それ、美味そうだな。一口くれ」
伸びてくる手をさっ、と避ける。
「いや。自分で買って」
「綿毛のくせに偉そうだな」
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