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「どうして言ってくれなかったの」
「言っても、どうにもならないだろ……おまえは寝てるんだから」
ダンテは額に手の甲を当てて、息も絶え絶えに言う。いつも自分勝手なくせに、どうして──。リオンは目を泳がせ、そっとダンテの肩に触れた。彼はそれを退けようとする。
「おい……棘が刺さるぞ」
「キスすれば、これ、なくなる?」
紅い瞳がこちらを見た。リオンはぎこちなく顔を近づけ、彼の唇に自分の唇を重ねた。一瞬だけのことなのに、永遠のように感じられる。きっと、いまドキドキしてるのは自分だけだ。
そっと唇を離すと、ふわりと綿毛が舞い、棘を覆うようにくるまる。綿が棘の間に挟まり、かすかに棘が緩んだような気がした。リオンはダンテを覗き込み、
「楽になった?」
「……ああ」
ありがとう。そう言って、ダンテは目を閉じた。しばらくして、安らかな寝息が聞こえてきた。
「ダンテが、お礼言った……」
それだけ、この棘はダンテを苦しめてきたのだろう。彼の手のひらに刻まれた薔薇のあざ。誰よりも優れた力の代償。そんなものを背負って生きるのは、どれだけ辛いだろう。リオンには想像もつかなかった。
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