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「馬鹿にするな。卵を割るだけだろ」
彼はリオンから片手で卵を受け取り、そのままボウルに打ち付けた。さすが、様になっている……と思ったのもつかの間。
ぐしゃり。ダンテの手の中で卵が割れた。彼はでろーんと垂れた卵白を見ながら眉をしかめ、
「卵のくせに生意気な……」
「いや、卵に生意気とかないから!」
(ほんとになにもやったことないんだ。ダンテって、おぼっちゃまだもんね……)
リオンがダンテに教えられることがあるなんて、思ってもみなかった。
「もっと優しくやるの」
リオンはダンテの手を掴み、卵をかんかん、とボウルの端に打ち付けた。ぱかっ、と小気味いい音を立て、卵が割れる。
「ね、簡単でしょ?」
顔をあげたら、ダンテが乱れた前髪の隙間から、じっとこちらを見下ろしていた。なんだかどぎまぎして、慌てて手を離す。
「た、卵をまぜて、次は小麦粉を、ってまだだし、入れすぎー!」
ばふっ、と袋をさかさまにし、勢いよく小麦粉を投入したせいで、もうもうと粉が舞い上がった。リオンは無情な気分で、粉だらけになったボウルを見下ろす。
「……」
リオンの表情を見て、ダンテが不服そうな声を出した。
「なんだよ、その顔は。おまえが入れろって言ったんだろう」
「もう……」
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