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五分後、ダンテは皿に乗った黒焦げのパンケーキを見て、眉をしかめていた。
「なんだこれは。食べ物か」
「ホットケーキよ。知ってるでしょ」
彼は食べる前から苦そうな表情で、ホットケーキを切り分けた。炭と化した物体を口に入れ、
「まずい」
「しょうがないじゃない、これしかないんだもん」
リオンは唇を尖らせ、パンケーキの炭部分をバターナイフでがりがり削っていた。削っていくと、三分の一ほどのサイズになってしまう。
「大体、ダンテがいきなりキスしてくるから悪いのよ」
「おまえがいいって言ったんだろう」
そう、キスしている時は、パンケーキのことが、すっかり頭から消えていたのだ……。リオンは赤くなり、早口で言い募る。
「な、なんか、いつもより長かったし!」
「気のせいだろ?」
ダンテはパンケーキをパクパクと食べ、ミルクで流しこむ。人をかき乱しておいて、なぜそう平然としているのだ……。
リオンはエプロンを外し、髪をまとめながら、
「ダンテ、先に行ってて。私、ちょっと時間かかるから」
「待っててやる」
「……なんでそんなにうえから目線なの」
「早くしろ、リオン」
「はいはい」
──あれ? いま、名前。振り返ったら、ダンテはすでに玄関へ移動していた。もう待つのに飽きたのかと思ったのに、本当に大人しく待っている。
なんか、ちょっと嬉しいかもしれない。リオンの気持ちが、ふわっと明るくなる。少しだけ、ダンテに近づけたような気がしていた。
「おい、まだか? 綿毛のくせに俺を待たせるなよ」
「わかってる」
偉そうなのは変わらないみたいだ。でも、なんだか慣れてきた。傲岸不遜な薔薇の王子さま。みんなよりずっと大人びて見えるのに、本当はワガママで、子供みたい。それを知ってるのは、リオンだけだ。そう思ったら、なんだか嬉しくなった。
「あと3分」
「わかったから!」
リオンは鞄を掴み、ダンテに続いて玄関を出た。
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