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花魔術師という存在は、200年ほど前に現れたと言われている。それまでは、街中や庭には、自然の草花が咲き誇っていた。しかし、花魔術が発見されてからは、「自然の草花」は不必要になった。
植物は、世話をしなければならないものだ。忙しく生きる人々──美しい花は眺めたいが、育てる暇は惜しみたい──そんな人々にとって花魔術は、まさにもってこいの魔法なのだ。
花魔術は実験によって進化し、あらゆる種の保存に成功した。自然の植物は必要ない。虫や動物が減った際も、食料の確保は十分。以前はともあれ、今の価値観はそうなっているのだ。
だがリオンは正直なところ、花魔術で咲かせた花よりも、自然に咲いている花の方が好きだった。
おちこぼれのリオンがそんなことを言っても、あまり説得力はないのかもしれないが……。
花魔術院(フラウィザード)には、あらゆる設備が整えられている。食堂や購買。実験室は六つあり、いつでも利用可能だ。花魔術で彩られた温室は、生徒たちの憩いの場になっている。
グラウンドでは、花魔術を使ったスポーツが行われていた。巨大化した花を浮かせて上に乗り、ボールを取り合う、「花籠(フラケット)」というスポーツだ。
金髪の青年がボールをゴールに投げると、女の子たちの黄色い歓声があがる。リオンは屋上で、その、文字通り華やかな場を見下ろしていた。滅多に人が来ない、寂れた屋上。リオンはここが好きだった。入学当初から、落ち込むとよくここにきていた。
「さてと」
リオンは足元に置いてあるじょうろを持ち上げ、給水塔へと向かう。水を汲み上げ、重さに耐えながら花壇へと向かう。花壇は風除けのため、ビニールで覆われていた。ビニールをのけたリオンは、植えた球根の様子を眺める。
「うーん、育つかなあ」
予定では、そろそろ芽が出る頃なんだけど。リオンは雨水をためたじょうろを運び、土に水をかけた。
「大きくなあれ」
鼻歌交じりに水をやっていたら、屋上のドアがガチャリと開いた。
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