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「いくぞ」
ダンテが手のひらをかざすと、地面が光り出し、みるみるうちに大輪のバラが咲きほこった。しゅるり、と薔薇の蔓が出て来る。
女の子も手のひらをかざし、足元に百合の花を出現させる。魔力の大きさは、術者の足元に出た花の大きさでわかる。彼女もかなりの魔力を持っているようだが、ダンテの薔薇とは比べものにならない。
あれだけの大きさの薔薇、しかも、赤い薔薇を出せるのは、恐らく今この世界に、ダンテひとりだけだ。
ツルの棘が、白い花びらを切り裂いた。女の子ががくりと膝を落とす。ダンテが手を下ろすと、薔薇が消えた。そして無情なひとことをつげる。
「約束だ。あんたとは付き合わない」
女の子が目を潤ませて顔を覆った。そのまま立ち上がって駆け出した彼女は、屋上の扉から出ていく。
そんな。こんなのあんまりにも、ひどい──。私は持っていたじょうろを、ぎゅ、と握りしめた。
歩き出そうとしたダンテを呼び止める。
「待って!」
ぴたりと立ち止まったダンテが、こちらを振り向いた。
「何してるんだ、綿毛」
「綿毛じゃないっ、リオン!」
「まさか覗き見してたのか。そんな場合か? 落第生」
「まだ落第してないっ!」
リオンは小さな声で呟く。
「 あんなやり方、ひどいよ」
「ひどい? なにが」
「あなたに勝てる人間なんて、いないのに。勝てるはずのない勝負を持ちかけるなんて」
「だからだよ」
「え?」
「勝てるはずがないのに受けたんだから、結果に納得してもらわなきゃ困る」
「でも」
「それに、俺の薔薇を無効化できない人間なんか、必要ない」
その言葉に、リオンは首を傾げた。
「どういう、意味?」
ダンテは口を開きかけ、また閉じた。
「綿毛には関係ない話だ。おまえは百花の中で最弱のたんぽぽだからな」
リオンはぐ、と詰まった。ダンテの言葉は的を射ていたからだ──。
「そ、そんなの、やってみなきゃわからない」
「へえ」
近づいて来たダンテから、リオンは後ずさった。
「な、に」
「やってみせろよ。無効化できたら、綿毛って呼ぶのをやめてやる」
──そもそも私は綿毛じゃないし、そんな条件をつけられる筋合いはない──そう反論したくても、リオンにできるのはただただ後ずさることだけだ。
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