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ついには、じょうろひとつぶん空いての距離で、ダンテと相対することになった。彼がゆっくりと手のひらをこちらに向ける。リオンは慌ててじょうろを置き、彼にならった。
ダンテの足元には薔薇が咲き誇り、リオンの足元にはたんぽぽの花が咲く。両者の花のどちらが優れているかは、比べるべくもなかった。
薔薇から伸びてきた蔓によって、一瞬で、リオンの花は散らされる。ああやっぱり、無理だ。リオンがそう思いかけたとき、ダンテが無表情でこちらを見ているのに気づいた。
──なんで、そんな顔、するの?なにかを諦めてる、みたいな。無表情なのに、なんだか苦しそうな、顔。
そんな顔、しないで。リオンがそう思った瞬間、ふわりと柔らかいものが宙を舞った。
「!」
ふわふわと浮く綿毛が、舞い降りてきて、薔薇の棘に付着していく。ダンテは珍しく目を見開いて、その様子を見ていた。棘が綿で覆われ、薔薇は毒気を抜かれたかのように動きを止める。
「なんだ……これ」
紅い瞳がこちらを向いて、リオンはびくりとした。ダンテが足元の薔薇を消し、リオンに身を寄せる。いきなり至近距離に顔が近づき、リオンは慌てて彼を押しのけた。
「な、なにっ」
「いいからじっとしろ」
大きな手のひらがリオンの手首を掴んだ。──え。と思った瞬間。
唇に柔らかい感触がした。
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