紅薔薇×黄薔薇

7/9
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
 ダンテの言葉に、リオンは肩を跳ねさせた。そんな。ダンテもいずれこうなってしまうというのか。そんなこと──あってはならない。リオンは唇をきゅ、と噛み、ミルテに向かって手のひらをかざした。ダンテが声を尖らせた。 「無駄だ、こうなったら、もうどうしようもない」 「そんなこと、ない」  リオンの足元にたんぽぽの花が咲き、ふわりと綿毛が舞った。その綿毛が、ミルテの身体を包んでいく。それはまるで、粉雪のようだった。しかし、蔓は動かない。リオンには、何もできない──。  帰ろう、とダンテがつぶやいた。  家政婦は、痛ましそうな顔で、ダンテとリオンを見送った。玄関を出たダンテは、リオンに背を向け、ぽつりと、 「大叔父は、俺以外の、唯一生き残ってる呪印の持ち主だった。生涯独身で、妻も子供も持とうとはしなかった」 「……どうして?」 「呪印の血を絶やすためだ。俺も、そうすべきだ、って考えてる」  呪印の持ち主は一人で生きていくべきだ。あんな姿を、誰かに見せるべきじゃない。ダンテは淡々とそう続けた。  リオンはなんと言っていいかわからず、ダンテの背中を見つめた。  黙り込んだ2人が門から出たら、表に黒塗りの車が止まっているのが見えた。ドアが開き、一人の青年が出てくる。その人物を見て、ダンテが立ち止まった。緋色の瞳が、大きく見開かれる。 「……ルーベンス」     
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!