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ダンテの言葉に、リオンは肩を跳ねさせた。そんな。ダンテもいずれこうなってしまうというのか。そんなこと──あってはならない。リオンは唇をきゅ、と噛み、ミルテに向かって手のひらをかざした。ダンテが声を尖らせた。
「無駄だ、こうなったら、もうどうしようもない」
「そんなこと、ない」
リオンの足元にたんぽぽの花が咲き、ふわりと綿毛が舞った。その綿毛が、ミルテの身体を包んでいく。それはまるで、粉雪のようだった。しかし、蔓は動かない。リオンには、何もできない──。
帰ろう、とダンテがつぶやいた。
家政婦は、痛ましそうな顔で、ダンテとリオンを見送った。玄関を出たダンテは、リオンに背を向け、ぽつりと、
「大叔父は、俺以外の、唯一生き残ってる呪印の持ち主だった。生涯独身で、妻も子供も持とうとはしなかった」
「……どうして?」
「呪印の血を絶やすためだ。俺も、そうすべきだ、って考えてる」
呪印の持ち主は一人で生きていくべきだ。あんな姿を、誰かに見せるべきじゃない。ダンテは淡々とそう続けた。
リオンはなんと言っていいかわからず、ダンテの背中を見つめた。
黙り込んだ2人が門から出たら、表に黒塗りの車が止まっているのが見えた。ドアが開き、一人の青年が出てくる。その人物を見て、ダンテが立ち止まった。緋色の瞳が、大きく見開かれる。
「……ルーベンス」
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