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ズキ×ズキ
★
眩しい朝日に、ダンテはまつ毛を震わせた。ワンワン、と吠えてきた散歩中の犬をギロッ、と睨んだら、飼い主が嫌そうな顔をした。吠えてきたのはそちらだろうに。
身体の上にかけてあった新聞を払いおとす。公園のベンチは硬くて寝付けない。髪をかき回しながら起き上がったら、靴音が響いた。ダンテが落とした新聞紙を、ぐしゃりと踏みつける。目の前に立っていたのは、一番上の兄、ルーベンス。
「……なんか用か」
ダンテが尋ねたら、ルーベンスが目を細めた。
「ロズウェルの紅薔薇が野宿なんて、みっともないね」
「あんたには迷惑かけてないだろ」
「家に戻りなさい。シルヴィアに呪いを解いてもらうんだ」
「で、あの女と結婚しろって? 笑わせるなよ……」
ダンテはずきり、と走った痛みに呻き、心臓をおさえる。そうだ、昨日は、リオンとキスしていない。ダンテが帰らなかったことを、彼女は気にしているだろうか──
ガキみたいだ。帰らないことで、リオンの気を引こうとしている。心配したの、ダンテ。どこにも行かないで。そう言って、出迎えてほしいと思っている。あの暖かい橙色の瞳で、見つめてほしいと思っているのだ。
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