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ルーベンスは苦しむダンテの腕をぐい、と引き、冷たい声で言い放った。
「おまえに選択権はないんだ、ダンテ」
ダンテとルーベンスを乗せた黒塗りの車は、大きな屋敷の前に止まった。ひと月ぶりに帰る、ロズウェルの屋敷だ。ルーベンスは、ダンテがいかに苦しんでいようが、一顧だにせず、窓の外を眺めていた。
車が門の前につくと、ルーベンスはさっさと地面に降り立った。ダンテは痛みに耐えながら、身体を動かそうとする。すがりついていたら、ルーベンスが面倒そうに尋ねてきた。
「一人じゃ歩けないのか? 無様だなあ」
「……」
すがりたくはなかったが、早く横になりたい欲求のほうが強かった。ルーベンスに支えられながら自宅へ向かうと、アルフレッドが駆け寄ってきた。
「ダンテ!」
兄はいつものやかましさを潜め、ダンテを心配そうに見つめる。今の自分は、よほどひどい顔をしているのだろう、とダンテは思った。
「なにがあった、ルーベンス」
アルフレッドの問いに、ルーベンスが淡々と答える。
「公園で野宿してたんだ。いい恥晒しだね」
「弟に対してなんで言い草だ!」
ダンテが咳き込むと、アルフレッドが慌ててその身体を支えた。ルーベンスはするりと手を引き、
「──すぐにシルヴィアを呼ぶ」
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