花火

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「気ぃ付けて行っといで。知らん人についてったらあかんよ」  浴衣を着せてもらいお母さんに見送られて玄関を出た。  きっときょうもわたしが一番かわいい。  にんまりして団扇を仰ぎながら下駄をからころ鳴らす。  途中の木陰からよっくんがひょこっと出てきた。 「さっちゃん。こっち来てえな。花火つかまえるけ」 「やだよ。そんなんウソに決まってるわ」 「なあほんまやけ、来てえな、なあ、なあ」 「もううるさいな。ちょっとやで」  しつこいよっくんは言い分が通らないと大泣きする。  こんなところで泣かれてはこっちが恥ずかしいので後をついていった。  神社裏の小川に着くとよっくんは得意げな顔で振り返った。  川面に映った花火を「取った」言うつもりやな。あほくさ。 「なあ、もう始まるけ、うち行くわ」  よっくんは返事もせず、岸の脇に置いてあったバケツで小川の水を汲んだ。  ひゅるるる、ぱぱああん。  打ち上げが始まる。  色とりどりの花火がバケツの中に咲いた。 「なっ。取れたやろ」  にっと笑う顔にわたしはひどくむかついた。  よっくんのくせに小賢しい。  無視して行こうとすると手首をつかまれた。汗ばんだ手の平にぞっとして思いきり振り払った。  花火の音に混じりどぶんと水の跳ねる音が聞こえたが、振り向きもせずそのまま立ち去った。それが何の音なのかその時は気にもしていなかったが、もし気付いていたとしてもきっと振り返らなかっただろう。  翌日、よっくんが行方不明だと村中が騒いでいたが、わたしは知らん顔していた。
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