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猿神の企み 鵺の願い
(大和山に行ったらまずイナホに謝ろう。それから、図書館で何を調べていたのか、ちゃんと聞いてみようかな。ああ、そうだ。スズランにお礼の鈴カステラを買って行ってあげようっと。心配かけちゃったもんね)
イナホとケンカをした翌日、そんなことを思っていた夏生の脇腹に何かが思い切り突っ込んできたのは、帰りのバスを降りた瞬間のことだった。
「うひゃあ!」
「ナツキ!」
呻き声に重なった幼い少年の声に、夏生は目を見開いた。
「ヤマブキ! 一体、どうしたの」
夏生を見上げているヤマブキは、紺色のハーフパンツにスニーカーを履き、山吹色のトレーナーを着ていて、そこら辺にいる小学生のように見える。だが、ヤマブキは大きな薄茶色の瞳を潤ませていた。
「スズランがいないんだ! 昨夜から帰って来ないんだよ!」
「――え?」
「だから、ナツキも探して! お願い!」
突然のお願いに、夏生は大きく目を見開いた。捲し立てるヤマブキを連れて駐輪場に向かう。人がいなくなったことを確かめてから、夏生はヤマブキに尋ねた。
「スズランが帰ってこないって、どういうこと? 詳しく教えて!」
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