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世繋ぎ狐と女子高生
「ねぇ、おばあちゃん。今日は何のお話?」
綺麗に色付いたミカンの皮を剥く祖母に、干しイモを頬張る夏生が昔話をねだった。
冬になると、志賀家の居間の隅には石油ストーブが姿を現す。活躍し始める十二月にもなれば、その上でヤカンがシュンシュンと蒸気を上げ、干しイモが炙られるようになる。
そして、ソファの前のローテーブルにミカンが山盛りになった籐の籠。
祖母と並んで座り、表面がカリカリ炙られ、中身はホクホクと柔らかくなった干しイモを頬張りながら昔話を聞くのが、小学四年生の夏生の楽しみである。
孫娘のリクエストに嬉しそうに瞳を細め、顔をしわくちゃにした祖母は、ミカンの小さな房を口に放り込んだ。
「そうだねぇ。礫島の話でもしようかね」
聞こえてきた名前に、夏生はぷくと頬を膨らめた。
「礫島? 富士ノ山を作ろうとしたダイダラボッチのお弁当に小石が入ってて、それを浜美湖に投げて出来たんでしょ。何回も聞いてるよぉ。この間、学校に昔話をしに来たおじいちゃんも話してたし、『三日名町の昔話』の本にも絶対に載ってるもん」
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