世繋ぎ狐と女子高生

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 首を傾げていた夏生だったが、球体が口にしたヒントにポンと手を叩いた。 「それって、稲荷山(いなりやま)のこと?」  思い当たったのは、夏生が卒業した小学校の裏山。町の人々には稲荷山と呼ばれている山である。 「稲荷山ならわかるけど……。あんた、そこに行きたいの?」 「ああ。いなりじんじゃのあるおおわやまには、つなぎやがいるそうだ。ここからとおくないらしいんだが」 「確かに遠くはないけど」  そう答え、暗くなった山の方向を見やる。今いる場所からならば、歩いても十分ほどで着ける距離だ。  しかし、“つなぎや”という耳慣れない言葉に首を傾げた。そんな店が稲荷山にあると聞いたことはないし、そう呼ばれる人がいるという話も聞いた覚えがない。 「つなぎやって何?」 「うつしよとかくりよを、つなぐやつのことだ」  尋ねてみても、よくわからない単語が増えただけ。だが、“つなぎや”は“うつしよ”と“かくりよ”という二つの場所を繋ぐ者のことらしい。“繋ぎ屋”と書くのかな、と考えていると、ずいと球体が近づいた。 「それで、どこだ」  目の前で鋭い歯を光らせている球体に、思わず短い悲鳴をあげたときだった。 「待てよ」     
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