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慌てて窓を開け、部屋のなかへ入れてやる。サッシをぴょこんと飛び越えて入ってきた白猫は上品に座り、澄んだ瞳で夏生を見上げてきた。
「どうしたの?」
「夏生ちゃん。あのね」
夏生の問いかけに返ってきた可愛らしい声は、確かにスズランの声だった。猫の姿のまま、スズランはまっすぐに夏生を見つめている。
視線を合わせるように、夏生もカーペットの上にしゃがみ込んだ。
「さっき、イナホさんとケンカしてたよね」
切り出された言葉に、思わず顔をしかめてしまったのは、夏生の気持ちがまだ晴れていないからだ。
夏生の険しい表情に、スズランはぺたんと耳を伏せた。
「怒らないで。イナホさん、邪魔だって本気で言ったわけじゃないと思うの」
「あれは本気の顔だったよ、スズラン。そりゃ、あたしは人間であやかしと戦えるわけでも、繋ぎ屋になれるわけでもなくて、できることなんか何にもないけど。でも、あの言い方はないでしょ。それに人間が嫌いとか言うしさ。それなら最初から礼がどうとか言わなきゃよかったのに。意味わかんない」
なるべく落ち着いた声で話そうとするが、やはり腹立たしいことには変わりない。不貞腐れた言い方をして、口を尖らせていると、スズランが「そんなことないよ!」と声を上げた。
普段はおとなしく、控えめな少女が出した強い声に、夏生は目を丸くする。
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