水虎の探し物

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「繋ぎ屋さんのお仕事のとき、ひとに見られたことは今までにもあったの。でも、目の前にいるものがあやかしだってわかったら、みんな青い顔をして逃げて行ってしまって、お礼しようなんて思ってくれたひとは誰もいなかった。それこそ、夏生ちゃんみたいに何度も会いに来てくれるひとなんていなかったの。だから、そんなひとに怪我をさせたくなくて、でも言い方がわからなくて、あんな言い方になっちゃったんだと思うんだ。怒ったみたいな言い方だったから夏生ちゃんが気を悪くするのもわかるんだけど、許してあげて。お願い」  スズランの一生懸命な訴えに、ささくれだった夏生の心が落ち着いて行く。  よくよく考えてみれば、スズランの言う通りだ。  夕暮れどきは逢魔が時。現世と幽世の境目が曖昧になる時間は、あやかしに出くわすことも多くなる。堂崎での騒動は、ちょうどそんな時間だった。しかも、大和山に来て話しているうちにどんどん闇は深くなっていくばかり。あやかしの世界の出来事に関わらせたくないのも、何の力もない人間の夏生を悪さをしようとするあやかしの被害者にしないため。猫又おばばが何も言ってくれなかったのも同じ理由からだろうと、冷静に考えればきちんとわかる。  だが、つっけどんなイナホの言い方に苛立ちが加速した夏生は、自分の思いばかりを押し通そうとして、イナホの想いを汲んでやれなかった。それどころか、いざとなったら助けてくれるよね? と他力本願な思いを抱いていた部分があったことに気付かされ、夏生は苦く笑った。     
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