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「――そうだね。あたしがいたって足手まといになるだけだもん。元々関わるなって言われてたのにわざわざ首を突っ込もうとしたんだもん。あんなふうに言われても仕方がなかったんだ。あたしが売り言葉に買い言葉で言い返しちゃったから、こじれちゃったんだよね」
「イナホさんの言い方も良くなかったから。夏生ちゃんだけのせいじゃないよ」
喧嘩両成敗だと笑うスズランの頭を、夏生は優しく撫でてやる。
「ありがと、スズラン。それでも、あたしも悪かったからさ。明日、謝りに行くね」
そう告げると、スズランは瞳を細めて、にゃあと小さく鳴いた。
「イナホさんのこと、嫌わないであげてね。夏生ちゃん」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
苦く笑って頭を撫でると、スズランがぱたぱたと尻尾を振って立ち上がる。水晶の瞳が窓のほうを向いたので、夏生がカーテンと窓を少しだけ開けてやると、ちらりと白猫が振り返った。
「そういえばね。イナホさん、今まで図書館なんて行ったことがなかったの。ひとが集まるところなんて嫌いだって言って近づかなかったのに。不思議ね」
猫顔のスズランが、柔らかく笑って「帰るね」と尻尾を振る。
「うん、また明日。車の少ないところを通って帰るんだよ」
「はあい。じゃあね、夏生ちゃん」
「おやすみ、スズラン」
ベランダに出た白猫は、ぴょんとベランダ柵の縁に飛び乗る。細い縁を歩き、隣の家の植木を伝って地面に降りると、さっと路地に入って姿が見えなくなった。
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