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そっと窓とカーテンを閉めた夏生は、ゆっくりと椅子に腰かける。
なんだ。イナホは、本気で言ったわけじゃなかったんだ。悪いことしちゃったな。
スズランの声を思い出し、つい顔が綻んだ。
『夏生ちゃんが来てからのイナホさんは、何だか嬉しそうにしてることが増えたの』
(それが本当なら、人間を嫌っているような素振りも、あたしをあやかしとのトラブルに巻き込まないようにするためだったりして――なんて、それはないか)
浮かんだ考えを打ち消した夏生だったが、考えれば考えるほど、イナホの言動は矛盾が出てくる。
本当に人間が嫌いだったのなら、夏生が自転車まで連れて行ってくれと頼んだのだって突っ撥ねただろうし、狐姿のヤマブキの背から落ちないようにと支えてくれたりしなかっただろう。水虎の手伝いをするのだって、どうにかして止めたはずだ。
イナホはクールを装っているくせに、大事なところではいつも優しい。ものすごい捻くれ者なんだ、と思ったら笑いが込み上げてきた。
「妖狐のくせに天邪鬼とか。あやかしの種類、間違っちゃってるじゃん」
イナホの見せる言動の矛盾に気付けば、ツンケンとした態度も仕方がないかと思えるようになる。
(スズランの気遣いに免じて許してやるか)
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