世繋ぎ狐と女子高生

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 夏生は家の前を通りすぎ、長い坂道を上る。上り切って、母校である三日名西(みかなにし)小学校の入口まできて振り返ってみた。山の中腹からは、背の低い町並みの向こうに輝く湖と、それを囲うように聳える山々が見え、夏生は「やっぱり田舎だな」とぼやいた。  夏生が暮らす三日名町は静岡県の西の端にある、猪足湖を囲む山々の麓に広がる、遠州の田舎町。『水と緑とお天道様の町』とのキャッチフレーズ通り、年間を通して温暖な気候に恵まれている。町を囲う山の斜面を利用して作られるミカンは全国的にも有名だが、それ以外に特別なことはない、愛知県との県境にある小さな町だ。  町を一瞥した夏生が向かったのは、三日名図書館である。とても立派で綺麗な図書館で、夏生は週の半分ほど通っており、宿題や予習復習をしていた。  なぜなら、家には年の離れた小学生の弟妹がおり、友達が遊びに来るとうるさくて敵わないからである。耳につく弟たちの騒ぎ声から逃れる先が、山の中腹にある図書館だった。  最奥にあるガラス張りの学習スペースは夏生のお気に入りの場所である。そのうちの一席に荷物を置いて、課題のための教科書を出したところで夏生は苦い顔をした。 「……日本史かぁ。何か良い資料、ないかな」  夏生は日本史が苦手だ。年号や名前、出来事、どれも似通っていて上手く覚えられないのだ。気分が乗らないまま、夏生は本棚の迷路のなかに入って行った。   ◇ ◇ ◇ 「やっぱり自転車で来るべきだったかも」     
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