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図書館を出た夏生は、スクールバッグを肩にかけ、早足で薄暗い帰り道を急いでいた。秋の夕暮れは早く、僅かに残ったオレンジ色もすでに消えかけている。
普段はもっと早くに帰るのだが、苦手な日本史は手強かった。調べ物をするつもりで書棚に向かったものの、『三日名町の昔話』という小学校時代に使っていた社会の副読本を発見し、ついつい読み耽ってしまったのだ。
並んでいた話はどれも祖母が聞かせてくれたもので、懐かしさに心があたたかくなったが、自身の現実逃避ゆえに持ち帰りになってしまった日本史の課題を思い出して溜息をついた。
「伝説伝承は大好きなのに、どうして日本史は頭に入って来ないかなぁ……」
問いかけてみても、バッグのなかでペンケースとスマートフォンが触れ合い、カチャカチャと音を立てるだけで答えはない。
「伝承のテストがあったら、かなりの高得点が取れそうなんだけど……あるわけないよねぇ。神様とか妖怪は想像の世界のものだもん」
夏生は自嘲気味に笑った。妖怪の正体は天災や当時の流行り病だという話を聞いたことがあり、高校生になった今では架空の話だという認識になっている。
「妖怪、本当にいたら面白いのにな」
夏生の呟きに、冷えた秋風が肩までのくせっ毛を揺らした。さすがに膝丈のブレザースカートでは少し寒かったからだろうか。ぞわぞわ、と背筋に悪寒が走る。
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