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(図書館内のなか、暖かかったもんな)
室内と屋外の寒暖差にきゅっと身体を縮めた夏生は、制服のポケットに突っ込んだスマートフォンを取り出した。
ストラップ代わりに揺れたのは、二年前に他界した祖母が作ってくれたお守りだ。オレンジ色の袋はやや汚れてくすんだ色になっていたが、今も現役である。肌身離さずに持ち歩けと祖母が口を酸っぱくして言ったため、いいつけを守ろうとしたら、自然とお守りはスマートフォンのお供になっていた。常に持ち歩くのならば、財布やスクールバッグよりも、これが一番確実だからだ。
夏生は画面に表示された時刻に顔をしかめた。
「夕飯、間に合うかな……」
夏生は歩く速度を上げた。
時折吹き付ける風はすっかり秋風で冷たい。道端にはりぃん、りぃんと虫の鳴く声が響いている。人だけでなく、車通りも少ない道は、虫の声と自分の立てるバッグの中身の音、足音以外は聞こえない。
そのはずだった。
タッタッタッ……
リズミカルに歩く自分の足音に、妙な音が重なっている。
ぺたぺたぺた……
後ろに誰かいることに気付き、不審者を思い浮かべた。
田舎町でも、そういう輩はたまに現れる。それが今か? と考えると、肌が粟立ち、自然と足早になる。
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