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ふに、と球体が少しだけ傾く様は、まるで首を傾げているようである。
そんな動きも出来るんだ、と目を丸くしていると、球体は一歩踏み出しながら言った。
「なぁ、おおわやまはどっちだ?」
ぺたり、と聞き覚えのある足音。
どうやら、ずっと後をついてきていたのはこの球体だったらしい。
(つまり、図書館を出てすぐくらいから、これがぺたぺたと後ろをついてきてたってこと?)
想像した夏生は、絵面の微妙さに顔をしかめた。その光景を見た人は、確実にこれが夏生の持ち物だと思ったに違いない。ペットと見るには得体が知れなさ過ぎる物体だ。
――誰ともすれ違ってないや、と目撃者がなかったことに安堵していると、目の前の球体がにじり寄ってきた。
「おおわやま、しらねぇか?」
カパァと口が大きく裂ける。サメのような細かく鋭い歯が並び、街灯を反射してきらりと光っている。
「ひゃあああ!?」
突然牙を向かれたことに驚き、夏生はよろけて思い切りしりもちをついた。それでも球体は足は止まらない。
「なぁ、おおわやま、しらねぇか?」と問いながら、ぺたりぺたりと間合いを詰めてくる。
「お、おおわやま?」
尋ねられた山の名前を繰り返すが、夏生の記憶にはない。
「いなりじんじゃがあるやまなんだが」
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