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手負蛇と大和山のあやかしたち
「昨日、津木崎でサルが出たんだって。先生が気を付けろって言ってたよ」
小学六年生になる夏生の弟・冬馬が言ったのは、夕食の席でのことだった。思いつきで話すことが多い弟なので、夏生はまたかと聞き流す。好物である甘めのだし汁がたっぷりの親子丼をゆっくりと味わっていると、しみじみと祖父が零した。
「サルかぁ。ま、この辺りは平気だろうけど、ミカンやってる衆らは気が気じゃないだろうなぁ」
夏生の自宅は三日名町の中心部で、商店街が立ち並ぶ地域にある。サルが出るのはもっと山寄りの地域で、農家にとって迷惑極まりないことはわかるが、夏生にして見れば「やっぱりこの町、田舎だな」の一言で済んでしまうのだった。
夕飯を終えた夏生が部屋に戻ると、机の上に置きっぱなしにしたスマートフォンの着信ランプがピカピカと光っていた。食事中はスマートフォンを携帯しないというのが、志賀家のルールで、守らなければ母親に取り上げられてしまうので、夏生は渋々だが守っている。
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