水虎の探し物

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水虎の探し物

  学校から帰るバスの揺れは、早起きの学生の眠りを誘う魔のリズムだと夏生は思っている。市街地の高校へ通う学生たちにとって、通学のバスは第二のベッドである。登校のバスでは間に合わなかった予習を行うこともあるが、帰りは気が抜けてウトウト――どころではなく、爆睡してしまう者もいる。街中の高校に通う夏生も、例に漏れずそのひとりで、気が付けば降車のバス停まであと十分、ということはしょっちゅうだった。  その日、左後方座席の窓際に座っていた夏生は、窓の外を流れていく景色をぼんやりと眺めていた。揺れが心地よくてウトウトとしてしまうのはいつものことである。  放課後に委員会活動があり、いつもよりも一本遅かったため、外はオレンジ色から漆黒に変わりかけていた。 『宇畑(うばた)、宇畑ぁ』  のんびりとした運転手の声に目を開け、ちらりとバス停を見る。宇畑は一年前まで夏生が通っていた三日名中学校の最寄りだ。小学校とは対照的に湖沿いにあり、防風林に囲まれている。学校帰りの中学生たちが、懸命に自転車を漕いでいる姿が目に入り、少しばかり懐かしんでいると、バス停の影に何かがいることに気付いて、ぎょっとした。     
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