第3話 恐怖のカメムシとイタリア風まつたけおじや

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「待ちなさいおばあたん!」  トタタタタタタタ…  「おばあたん!」  午前中から暴走するおばあたんが入り込んだのは母親の寝室である。  「戻ってらっしゃい!」  こちらの呼びかけも虚しく意気揚々のおばあたんはベッドの下へとびこんだ。  私の足もとをすり抜けた瞬間の顔といえば 「アタイを止められるもんなら止めてみな!ママ!」  とでも言いそうな得意げな表情で、私はため息をつく。 「あのねえ、おじょうさん。私忙し……」  ベッドの覗き込めば暗闇に緑に光る目がふたつ。 「フッ…この私が捕まるとでも…?ニヤリ」  心の中でアフレコされたのはそんな強気な声だ。  CVは沢城みゆきさんだ。  要するに峰不二子だ。  いや…もうちょっと日頃の振る舞いからして色気のない声が適切かもしれない…。  数秒の見つめ合いをやめ私は立ち去ることに決めた。  「忙しいんだからもう知らないからね!おやつぬきだからね!」  まだ片付いていない食器や、自分の身の回りのケア。  女子のはしくれたる乃ノ太郎の午前はそれなりに忙しい。  おばあたんが一人で部屋に閉じこもらないよう扉を全開にし、ロングになりつつある髪を団子に結いながらその場を去った。  どうせほっておいても真面目に追いかけ回しても出てくるタイミングは同じようなものだ。    いつもなら放っておけば寂しくなって戻ってくるのに、今日はその気配がない。  集中してやるような作業は終えた。  そろそろ迎えに行かねば…。  このままではバイキングがはじまっても戻って来ないかもしれない。  しかしドタンバタンといういつもの音がしないところから察するに彼女はあの部屋で寝てしまったのだろうか。 「おばあたーん!むっかえーにきったよー!おばー……………た、だ、誰!」  私とおばあたんはしばし互いに廊下の真ん中で見つめ合う。  二人とも微動だにしない。  緊迫した空気が流れる。  なぜなら、私たちふたりの間には招かれざる客がいたからだ。
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