第3話 恐怖のカメムシとイタリア風まつたけおじや

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「誰っ!」  尋ねて答える相手とも思えない。  ただなんとなく尋ねる事で動揺を抑えようと必死だった。  大丈夫、ゴキブリではない。  でも私はこんな奴、知らない…。  驚きに見開かれた目がそろそろ乾燥してきた。    無言のおばあたんと私の間に静かにたたずむそれは、昆虫だった。  なんの昆虫だ。   カブトムシとゴキブリを同じ"黒い丸い奴"と評価する虫の扱いの雑な私がそんなこと知る由もない。  ただ察するに、斑模様は秋っぽいしよく見かけるやつでもない。  だから秋の虫だろう。  洗濯物にでも付着してきた秋を告げる使者…。  いいぞ。  秋を告げる使者とかちょっと風情があるぞ。  そうだ。  ここは秋だなあ、とほっこりすべき…… 「するか。虫やん。っただの虫やん!」  後ずさる私をおばあたんは真顔で見ていた。  苦手なビジュアルに思わず蜂用殺虫ジェットを思い浮かべる。  しかし駄目だ。ここには動きの予測できないおばあたんがいる。  くそ、どうする。私。  リビングへ駆け戻り兵器を掴む。  これだ。  これで私はあいつと…戦える!  ……と信じてる。  上体を低く構え動かぬ昆虫ににじり寄る。  今日の私の武器、それは…〈長めにカットしたガムテープ〉  木製の剣以下だ。わかっている。  装備のしょぼさはわかっている。  でも今の私には、このくそニートめにはこれが精一杯の武器だ。 「やればできる子!わたしやればできる子!…フーッ…できる子ッ!」  叫びテープの端で昆虫を取り押さえる。   「…ッなっ!?」  昆虫は穏やかに一歩前進した。 「お……お?……ああ、そう来るかね」  なるほどこいつは割におっとりとした性格らしい。  なら急に飛び上がって私を震えあがらせることもないだろう。 「せいっ…」  地味な戦いはつづく。 「そいっ…あ」  私は侵入者を取り押さえることを諦めない。  諦めたら試合終了ってアンザイ先生が言ってるっ聞いたことあるから! 「せっ………ふ…お」  おおお、と後ずさる。  視線の先にガムテープで床上に密閉された塊がある。 「やった…か…」    空気穴を失くしてしまおうともう一枚バッテンにテープを重ねる。  これにて 「完結…」  
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