第1話 乃ノ太郎と絶望の海鮮塩焼きそば

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 オリーブオイルが温まったなべに、刻んだニンニクを入れる。  この時忘れずにニンニクの芽みたいなところは外しておく。  あれが口臭のもとらしいと、どこかで聞いた。  ジュージュー、パチパチ  聞きなれた音に弱火をかける。  そして刻みネギを投入。  これでニンニクとネギの香りが油に移って美味しい油になっていく。  香ばしいニンニクの香りがキッチンに漂う。  タンタンタンタン  昔からは想像できない包丁の軽快なリズムが我ながら誇らしい。    まっとうな同年代と自分を比べてニートな自分が惨めな日もある。  でも料理はしてきた。  無職でも上がるスキルはあるのだ。  白ネギをざくざく短冊切りにすれば野菜の甘み部隊が編成される。  悲しいときには旨いものにかぎる。  何があってもとりあえずちゃんとご飯は食べるようにって、サマーウォーズのおばあちゃんも言っていた。  解凍しておいたシーフードミックスを開封。  ニンニクネギ油に放流。  まだ少しだけ凍っているエビがフライパンの上でパチパチ震えている。  より賑やかな炒め音に顔がほころぶ。  ジュージュー、ジャージャー…  さて、次はそこに水!  そしてウェイパー…だっけ。  中華味の神的なチューブ調味料を絞り出して。  お好みの量の塩を少し濃い目に。  スープの量が少なくならないように注意する。  今日は餡掛けにするから。    香りは一気に海鮮中華。  ぐつぐつ煮えるスープの気泡が海老やらイカやらをかき混ぜていく。  絶対に旨い。  これ今日旨い。  短冊ネギを仲間に入れて、火を通す。  ここで時間をもて余したニートのひと手間。  長ネギの緑のところを彩りのために雑めのみじん切り。  できれば小口ネギだと楽だけど。  短冊ネギと一緒にそれらもスープにどぼん。  味見の一口。  海鮮味のこくが舌にたっぷり染みる。  そして効かせた塩味。  疲れた身体をじわじわ生き返らせていく。  あとに残るのはふんわりとしたネギ油の香り。  …あー、旨い。  旨いけど悲しいけど旨い。    
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