第1話 乃ノ太郎と絶望の海鮮塩焼きそば

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 国家試験不合格は重い。  でもここで挫折するような性格ならそもそもニートなんて大それたものになっていない。  私は臆病だがマイペースなのだ。  今度はフライパンに多めにごま油をたらす。    もうわかる人にはわかるだろう。  私は焼きそばの麺をカリカリに揚げるつもりなのだ。  しっとりとカリカリの二重奏を貪る気満々なのだ。  油が温まったところへ蒸され済の麺を手で解してぽい。  一応かるく平らにならして、ごま油にお任せ。  どうぞカリカリにしてくださいまし。  お願いしながら蓋をする。    さて、放置していたスープはといえば素晴らしい香り。  仕上げに水とき片栗粉………が  ない。(エコーかけて)  (ない。)  (ない。)  (ない。)  …お、恐れるな私よ。  社会生活におけるアクシデントに有効なスキルは持ち合わせていないが、これは料理だ。  ここはまだ我城の中。  こんなぼっちニートにも打つ手はある。  ………秘技!!わらび餅粉!!!!!!!  心の中で叫び、無言で冷凍庫から出したわらび餅のもとを少量の水に溶かす。  スープの火を止め回し入れる。  あと私がすべきことは、高速でかき混ぜる!  再度点火。  ダマなど作ってなるものかっ!!  真顔の私と鍋のなかを回る木ベラがスープを魔法のように餡掛けに変えていく。  一度濁ったスープがクリアになればフィニッシュ。  平皿にカリカリ麺が着陸した。  トサッという軽い音をたて、麺は舞台から私を見上げる。  そして湯気のたつ鍋からなめらかに滑り落ちる海鮮とネギを含んだ黄金の餡掛けスープ。  完璧だ。  人生も試験もワナビとしての腕も最悪だが、今日の塩焼きそばだけは完璧だ。  ちょっと泣きながら焼きそばを頬張る。  私、負けない。  ライフちょっとしかないけど、現実ダンジョン負けない…。   「…うまっ」  私の小さな呟きとテレビ番組の笑い声を聞いていたのは"おばあたん"だけであった。  私、乃ノ太郎は社会不適合だが料理のできるちょっとチャームな女の子(仮)である。
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