第2話 降りそそぐ結果とパラパラ納豆チャーハン

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 私、乃ノ太郎の一日は午前九時のぬるい目覚めからはじまる。  朝食に梨を剥き、パンを焼き、野菜ジュースを製造。  食器類を洗い洗濯。  おばあたんに餌やり。  そのトイレの片付け。  次に掃除機をかける。  ひととおり終えてPCの前に陣どった。  ここで昼までにBLの更新作業となる。  乃ノ太郎はニートである。  ほどほど前向きなニートの生活というものは家族への責任を伴わない主婦のようなものだ。  ここにきて齢四半世紀を迎えた私は、自分が無償で受けてきた母親の愛ある家事の精緻さに恐れおののいている。  ムラなく毎日旨い食べ物を提供する恐ろしき料理スキル。  常に埃ひとつないのはおろか空気にまで清潔さを演出する驚愕の掃除スキル。  家族のスケジュールと体調を一手に把握、管理するマネージメントスキル。  家のローンを素早い完済へ導き、生活に一定の潤いを与えるやりくりスキル。  チート級の母親の能力に震える。  異世界換算したらうちの母親はおそらく伝説級のなにかに違いない。  それにくらべ不出来な娘で申し訳ない。  彼氏はおろか友達も…いるんだかいないんだかよくわからないし。  四大卒無職だし。  でも私、ニートだけど生きてて楽しいよ。  素っ裸でダンジョンフラグだけど、まじ卍だよ!    そうしてニートなりのタイムテーブルに沿ってblの更新を終え、キッチンへ向かう。  お腹がぐうう…と鳴りはじめた。  お腹がすいてると戦はできないよってどっかの武将が言ってた気がする。  私に武将の知人がいるのかはさておき、早くなにか食べないと倒れそうだ。    愛猫おばあたんは私のストーカーだ。  PCの前からおもむろに立ち上がる私に反応し彼女も昼寝を切り上げる。  どこいくのー、とくねった軌道を描きながら飼い主を先導するさまは何にも代え難く可愛らしい。  ただし不用意に撫ぜると噛まれる。 「みゃみゃ!」  といって迷惑そうに見上げてきたおばあたんの言葉は訳してみるに 「うるっせえババア!ニートの分際でなに触っとんじゃコラ!」  といったあたりの意味だろう。  案の定噛まれた私は黙ってキッチンを目指す。  何をやってもダメな生活に唯一手っ取り早く達成感を与えてくれるもの。  それは料理だけだ。  
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