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 皆は閉店の時刻までひっきりなしに喋って、笑って、帰っていった。秋鹿とハルはテーブルの上を片附け、食器をキッチンへと運んだ。  ハルはエプロンのポケットから薔薇(ばら)の形に折り直した折り紙を取り出すと、冷蔵庫に貼った。横には皆が七夕に書いた短冊が貼ってある。その中に、ハルの書いた短冊は無かった。 「おばあちゃんは、七夕の時、短冊に何て願いごとを書いたの?」 「私ですか? みんなが元気でいられますように。みんなが幸せでいられますように。秋鹿が愉しく学校に通えますように。夏紀が健康で仕事を頑張れますように。みんなの願いが、叶いますように」  ハル自身の願いは、ひとつも無かった。おばあちゃんらしいと、秋鹿は思った。 「秋鹿は、何て書いたの?」
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