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「……僕は、何も書けなかった」
「どうして?」
秋鹿は皆の短冊を見つめながら、答えた。
「……友達が出来ますように、なんて、子どもみたいでしょう。自分でも羞(はずか)しい願いごとだなって思って、書けなかったんだ」
口に出してみると、つくづく幼稚な願いごとのように思えた。
ハルはかぶりを振った。
「そんなことはありませんよ、秋鹿。素敵な願いごとです。あなたは人のやさしさを、信じているのね」
いつものように、包み込むようなまなざしで、ハルは秋鹿を見ていた。
「だから他の人と仲良くなりたい、友達になりたいって、思うのでしょう。人のやさしさを信じられる秋鹿は、素敵ですよ。私は、そう思います」
秋鹿は唇を引き結んだ。そんなことはない、自分はただ、独りぼっちが淋しかっただけだ。けれどハルが自分をそう信じてくれるのなら、そんな自分になりたいと、思った。
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