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ならば、と、なぜこんなにも怯えてしまうのか考え始めた。秋の夜長とも、冬の帰路とも違う夏の夜道。秋を彩る虫の音色も、冬に吹きすさぶ寒さもない。あるのは不快感を覚えるべたついた暑さのみ。 考えの末、たどり着いたのは『夏はそういうものだ』という結論。すべては気分。怪談話やお盆といった印象と夏が結びついているせいで、いもしない幽玄怪奇に怯えてしまう。 単なる勘違い。季節と恐怖の感情が偶然結びついたにすぎない。 だから、怖がる必要なんてどこにもない。 気を強く張りながら、帰路を歩いていくうちに見えてきたのは家の灯り。暗闇から脱することができればこちらのものだ。人は光によって暗闇を払ってきた。 しかし、そう考えるとどうだろう。人が光を作ったのなら、元々存在していた闇は誰のものだ。そこをすみかとし、ひっそりと佇んでいるのは魑魅魍魎ではないのだろうか。 そう頭に浮かんだ瞬間、首元に何かが触れたと感じて足を止める。 手で違和感を覚えた首元に触れながら、なんとなしに振り返った。そこには何もない。無限に広がる闇があるだけ。 そのことに安堵の息を漏らし、また家までの道を歩く。 だが、灯りが近づくことは一向にない。そもそも、俺はどこを歩いているんだ。一体、何から落ちて、どこを歩いているんだろう。なぜ、さっき暗闇に安堵したのだろうか――。
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