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「どうしてと言われますと……。うーん、弱りましたね……」
手袋を外し髪をすっと横に撫でつけた男が、声をひそめて言った。
「仕方がないから、お話ししますね。でもこれは、私とお客様だけの秘密の話にしてください、いいですか?」
一体、彼は何を欠けていると感じたのだろう――。僕が不安な気持ちで頷くと、男はゲームのパッケージのうえに手を置いた。
「なぜこのゲームだけほかのホラーゲームと比べてこれほど『この世のものではないモノたち』を再現できたのだと思います? なぜこれほど『ああ、あそこに危険な存在が居る』という恐ろしい感覚や臨場感を生み出せたのでしょう?」
突然の問いかけに、僕は答えることが出来なかった。男の先ほどまでの懐っこいような笑顔とは違う妖しい微笑みをじっと見つめたまま、喋ることも出来ないでいた。
ふうっと息を吐いてから、男がワントーン低い声でささやいた。
「……ここの会社って、倒産してしまったでしょう。従業員たちに立て続けに不幸があって、会社がたちいかなくなっちゃったんです。斬新なゲームで世間の注目を浴びた途端、なんで急にあんなことが起きちゃったか……。不思議ですよね」
耳を撫でるような声に困惑して、僕は「ええ、まぁ……」とあいまいな返事を返すことしか出来なかった。そんな僕の様子を無視するように、男はしゃべり続けた。
「それはですね。データ化してしまったんですよ」
「データ化って、なにを?」
「生きた幽霊を、って言ったら言葉がおかしいですけど……。いわくつきの場所へ行って、そこにいた幽霊をあらかじめ用意した依代に憑りつかせたんです。そして捕まえた幽霊を解析して、なんとデータに落とし込むことに成功したのですよ。すごいことですよね」
「幽霊をデータにするなんて、そんな滅茶苦茶な」
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